Japan Optimist Dinghy Association クラスルール計測委員会


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World Report  2007ワールドレポート

2007 カリアリ イタリア

Wataru Arakawa IM


7月19日(木)

2007年のOPレーサー達の最終目的地

イタリア サルディニア島 カリアリ。

第1レースの1週間前なのでまだ閑散としています。

強者どもの夢の前 (あとじゃありません)
これから世界の強豪が勝利の夢を託してやって来ます。
チリのチームはもう来ていた。

到着したばかりで、早速チャーター艇を受け取ったばかりの
ようだ。 この中に本番で大活躍したCHI 284がいるのだが、
この時はまだ思いも寄らなかった。

今にして思えば、早く来たのはそれだけ上位を
狙っていた気持ちの表れだろうか。

ノルウェー選手の船台。

タイヤが薄いので水に浮かず発着する時には
便利だろう。

セールは Jセール(ポーランド製)。
今、人気があるらしい。



7月20日(金)

早朝の会場、右遠方のテントとその奥が計測会場。
今までのワールドに比べて計測スペースが狭く、著しく簡素なので、少々以外に思った。


会場はスポーツセンターと呼ばれて、3年程前に出来た施設で、ディンギー専用、
大会よりもむしろ合宿に適している雰囲気で、マリーナとしてのサービス能力は低い。

しかし、ホテルがほぼ隣接の位置にあり、歩いて5分とかからず、便利なのは嬉しかった。

IODAの計測チームは、19日に到着と聞いていたが、昨日、11時〜2時まで待っていても
現れなかった。しょうかないので、ホテルに戻って少し休もうと、ベッドに横になると、
疲れからついそのまま寝てしまった。目が覚めて、これはいけないと、夕方の8時頃、
再び会場へ行くと、計測場の設定はいつの間にか終わっていた。

それで、夕食のレストランに入ったところ、IODAのIMの皆さんが食事をしていて
2年ぶりの再会を喜んだ。
イギリス、フランス、それに地元イタリアから。私を含めて計4名が集合した。

話を聞くと飛行機が遅れ、3時に到着したとの事、
そう言えば私も昨日1時間30分ほど飛行機が遅れたっけ。



ずらりと並んだチャーターボート。
イタリア製の ノルディスト と ナウティベラ です。

大会がヨーロッパで開かれる場合は、NORに「チャーター艇は強制ではない。」と書かれる。
つまり、アジア、南米などで開催の場合は全艇チャーターボートを使用艇とするけれど、
ヨーロッパ開催では、自艇の参加を認めるスタイルとなるのです。

だが、今回のチャーター艇は「くせもの」で、ピカピカの新艇からハーバーのレンタルボートまで
動員されての貸し出しとなり、「ピンからキリまで」との表現がピッタリとします。

幸い日本チームは、早めの到着だったので、程度の良好な艇を得られましたが、
最終頃に到着のタイチームなどは、ボロ艇と言っても過言でもない状態の残った艇を受け取り、
文句も言わず、艇エントリー 〜 計測へと手続きをしていました。

さっそく計測の受付が始まりました。

左は、IODA計測委員長の奥さんのアン・モリス。
今回、計測受付を終始取り仕切っていました。

中央は、地元カリアリの高校生、アシスタントとして活躍しました。

右は、フランスのIM ジャン・リュック氏

ハルの計測

不正な金属の重量物が隠されていないか、
金属探知器で調べているのは、同じくカリアリの
高校生でエドアルド。 彼はOP卒業生で、
熱心過ぎるほど熱心に仕事をこなしていました。

ジャン・リュックに「いつも、金属探知器で検査を
しているのか?」と聞くと、「俺も始めて見たよ。
でも、彼はこの検査が良いと信じているから、
やらせておけばいいよ。」との返事だった。
エドアルドが言うには、「僕は他の艇種の大会計測で
金属探知器を使うやり方を覚えたから、
OPでも同じようにやっているんだ。」との事でした。

左奥に見えるのはハル重量計。



フォイルの計測

テンプレートは、即製の机に直接大きなL型の金物を
打ち付けて作り、計測していました。

見えにくいのですが、書類の上に乗っている櫛形をした
アルミプレートは3本の溝があり、 それぞれ12o、
14o、15oでした。
ダガーボードの幅は285oなので、150oほどの
溝の長さで半分ずつ測れば、フォイルのどの部分でも
厚さが判る仕組みです。

また、左端の上の方にステンレスの丸棒が少しだけ
見えますが、これはダガーボードの重心が下縁から
520o以上の位置になければならない項目を調べる為に置かれています。
この方法で、ダガーボードの形状と重心位置が、一度にピタリと判明します。


セールの計測

今回の計測で一番忙しいポジションは、セール計測で
あった事でしょう。

とにかく251枚のセールを5日間で計測し、今回の
ワールドからは、基本計測を行わずに新品のセールを
持ち込んだ艇に対しては、基本計測を行い、
計測証明書を発行して、同時に大会計測のスタンプも
押すという手間のかかる作業でした。

もちろん、日本チームは、全艇が基本計測を済ませた
セールを持ち込んでおり、そのあたりは優良チームでした。

写真の左は、IODA計測委員長のカーリー・モリス氏です。

彼はIOD95艇のルールが出来た頃の計測委員長であり、
その後、IODA規則により、役員の長期留任の弊害を避ける
主旨で一時退任しており、その間は南アフリカのハンス氏が
委員長を務めていましたが、2004年から復帰しました。

写真の右は、アシスタントの地元高校生です。
メジャーを使っていますが、基本計測は計測値を書かねば
ならないので、YES・NOを判定するだけで済むテンプレートの
場合とは大違いの複雑さです。

セール計測テンプレートは2セットあり、もう一つの方では
地元カリアリのナショナルメジャラー(イタリアの公式計測員)
が応援に来てくれて、計測していました。
左はチームジャパンの計測を合格したセールです。

昨年までは、大会スタンプはタックに押していました。
しかし、今年からISAFの意向を汲んで、基本計測の
証明はタックに、大会計測はクリューに、スタンプを
押す事になったようです。
つまりスタンプが多いと基本と大会のスタンプの
見分けが付かないので、押す位置で区別するように
なっているのです。

この件について 私はカーリーさんに、「ISAFの勧めで
今年からクリューに変更したのですか?」と質問すると
「その通りだ、私は、本当はタックに押すのが好きなんだけどなあ・・。」と個人的な気持ちをまじえて
答えました。私も同感です。クリューのスタンプは、どことなく落ち着かない。タックに押したのなら、
セールがグッと締まる感じがします。

スパーの計測

最近のスパーはメーカーのルール対応が
充実して、もっとも問題の少ない計測品と
なっています。

スパー部門は全て高校生が配置され、
合格品は高校生がサインして、その上から
MEASUREMENTとプリントされた透明シールを
貼り、日付、国籍文字、セールb書きます。
私の知る限りでは全艇 ノープレブラムでした。
ハーバーの大会特別設備

イタリアと言う国は、あか
抜けたデザインやセンスの
良さでは定評があり、その
発想はすばらしいものが
あります。

右のセールスタンドを見たときには、なかなかイケてるな。と感心しました。

まだ到着していないチーム
のある最初のうちは、とても良かったのですが、
チームが増えるにつれ、だんだん傾くようになってきました。

設計者の意図するところは、左右均等にセールを立てる事を
誰もがやってくれる筈だと、期待と計算をしたのでしょう。
しかし、不幸なことに誰もそのことに気が付かず、
先の人に習って一方からのみセールを立てていったのです。
大会の始まる頃には、今にも倒れそうに傾きましたが、
その後、補強対策を施してその心配を拭うことが出来ました。


ロケーション

また、このハーバーにはクレーンはありませんでした。
かなり大きな(30フィート以上)インフレータブルボートが
ズラリと並んでいましたが、全てスロープからトレーラーごと
水に浸けて発着していました。多分クレーンが必要な場合は
クレーン車を手配して対応していると思われます。

近くにカリアリの町があり、そこには古くからヨットクラブが
あって、本部船となったクルーザーはそこから出港しており、

立派な施設があると思いますが、
治安の悪いイタリアの事、
町中では世界中から集まる子供達の
セキュリティが心配なので、
町から隔離されたような、リゾート
ホテル近辺を会場として選択された
のでしょう。
ロバ

ホテルからハーバーまでの短い道のりに、ロバの
牧場がありました。フランス人のジャン・リュックは、
特に興味があるようで、毎朝、いつもこの場所で
立ち止まってロバを眺めていました。私に向かって、
「見てごらん、ここに子供のロバがいるよ、そして、
あそこにお腹の大きな母ロバがいるだろう。彼女が
この子ロバを産んだのだよ。 次はあの腹の中の
子の番だ、多分この大会中に産まれるだろう。」
なかなか鋭い観察力です。
大会で忙しいと、ついセカセカして、ロバの前を通り
過ぎてしまう私とはずいぶんと違う。
写真は餌をやる優しい哲也。


ジャパン ガールズ


元気はつらつとした3人娘が、はるばる日本から
やって来ました。 夢にまで見たワールドの会場で、
ここに立っているだけで喜びがあふれてきます。

しかし、この写真は、会場の施設を紹介するために
掲載しました。
(他に いい写真がなかったのでゴメンナサイ)

今年は、大会モニュメントとか、ディスプレイされた
ステージ等はなかったのですが、強いて挙げると
すればコレ、右手に見えるのが、各国のチームに

一つずつ設けられた、フォイルと手荷物のロッカーです。

「LAT」とはラトビア国のこと。箱の上に立っているポールは国旗掲揚ポールです。
ここには参加55ヶ国の旗がズラリと並びます。

しかし、発想はすごく良かったのですが、箱の幅が小さいため、ポールとポールの間隔が
くっつきすぎて、国旗がよく見えなかった。 との不評もありました。

JPNの5艇を計測

20日は朝9時集合で、挨拶もそこそこで、すぐ計測を
始めました。私はハル重量計測のポジションで、
夕方7時近くまで休む間もないほどの忙しさ。
ただ、昼休みには、日本チームの休憩しているベンチで
保護者や監督コーチと一緒にくつろげるのが、憩いの
ひとときでした。

午後には、顔なじみの5人が入ってきました。
何事にも積極的な長堀さんが先頭です。

5艇とも新艇のオフィシャル・チャーター艇なので、
田中君が小さなコレクター(重量補正の木片)を
取り付けた以外は、特に問題はなく全艇パスしました。

右上は、エントリー時に提出する書類に、アンケートがあるので書いている選手です。
アンケートにはセーリング歴から、国内選手権の成績や体重を書く欄があって、
自分の体重を知らない選手は、計測の合間を縫っては、ハルの重量計に乗って調べていました。


7月21日(土)

今朝は、昨日よりさらに30分早い8時30分の集合で、膨大な量の計測に気を引き締めて
スタートしました。 

私はこの日からはモールド計測の担当となりました。

ハルのモールド計測

従来艇の時代では、木造自作艇とビルダー建造の
GRP(FRP)艇が同じクラスルールだったので、
寸法に幅があり、各社はこの許容範囲内でデザインを
競っていました。

しかし、本来はワンデザインが基本理念なので、
1995年に木造艇とGRP艇が別々の寸法ルールに
分かれ、アマチュアの自作を認めながらも、プロには
厳しい範囲を定めました。

以後は、IODAのIMがハルを成形するモールドで
コントロールするルールになりました。
しかし、アマチュアの協会であるIODAが、世界中に
点在するビルダーを全てコントロールすることは
容易ではありません。
モールドでコントロールするとの発想は素晴らしくても、
実態が伴わなくては無意味となってしまいます。

また、昔は、大会計測で普通に実施されていたハルの
形状計測も、大変な作業でしたが、IOD95になって
からは、モールドを信用するとの前提となり、おかげで
大会計測作業は少なくなりました。

しかし、逆に計測技術を維持することが、重要な課題と
なってきました。
製産された新艇は、その国の公式計測員が計測します。

IODAにとっては、計測証明書の信頼性を調べ、品質を把握する事がクラスのルール維持と、
オーナーが艇を入手しやすいようにとの 配慮のバランスを失わないために重要です。

そのため、この検査は、各社の代表艇をピックアップして測り、たとえスケールアウトが見つかっても、
その艇が出場停止になる事はありません。


7月22日(日)

今日から公式日程が始まる。

正式な到着日であるし、計測の5日間の真ん中に
あたるので、各国から続々と到着し、忙しさもピーク
となるだろう。

写真の右はイタリアのIM、パウロ・ルシアーニ氏。
自国開催なので、イタリア大会での計測の立て役者で
あり、全体を統括して、一番力が入っていた。
彼のキャラクターは冗談が好きで、明るくて、ダスディン・
ホフマンにちょっと似ている。
2005年のスイスワールドでお会いしてお世話になり、おみやげに竜のお守りのような安物グッズを
差し上げた事があり、「渡にもらった、あのときのドラゴンが玄関のドアにぶら下げてあるんだ。
いつも通るときに顔に当たって、じゃまをする。 その度に君の顔を思い出すんだ。」と顔の前を手で
払いのけるような仕草を交えて言われ、結構、安物でも親善交流に役に立っているものだな、と
我ながら感心しました。


ルイス・H・モラゲス氏のこと

 写真は、2004年のエクアドル大会の海上計測で
 活躍するルイス
申し遅れたが、
昨日よりポルトガルのIM、ヌーノ・レイス氏が応援に
来て、あちこちの手薄なポジションの穴埋めをしている。

2000年頃からIMをしていて、IMとしては若手だが、
温かくて思いやりのある性格の好人物です。

これでヨーロッパの役者はほぼ揃ったのだが、
一番肝心なIMの顔が見えないので、
「ルイスは来ないのか?」と聞くと、彼は一瞬顔を
曇らせて、「ルイスはもうリタイアした。」と言ったので
私はびっくりした。

スペインのルイス・ホルタ・モラゲス氏は、1995年頃からIMを務め、今ではIODA計測委員会の
大黒柱なのだ。

(日本の大会計測でもおなじみのセール計測で使われているフィルム・テンプレートは、彼の考案・制作で、幸い現在2セット所有しているが、今後はもう手に入らないかも知れないと思った。)

「どうして辞めたのか?」と尋ねると、答えに困っていたが、「忙し過ぎたのだろう。」と言い、その答えから 推測してくれ、とでも受け取れるようなニュアンスだった。

私の心配は、ルイス氏がIODAの仕事に多忙を極め、私生活とのバランスを崩したのではないか、との
推測で、これが当たっていなければいいのだが、と思うばかりでした。


シャンハイ・ファー・イースト


今の世の中、メイド・イン・チャイナ商品なしでは何も語れない。

OPの世界もまったくその通り、昨年チャンピオンを輩出したドイツが今年選んだのは、
チーム5艇のうち、3艇が中国製だった。


写真はドイツのレジストブック

金色の特別シールは、
「ERSのハルは建造した国の計測員が基本計測を
 行い、証明書を発行する。」
との原則が崩れ、あまりの中国建造数に計測員不足の
問題が解決されず、IODAが特別に他の国の(多分
輸出された国だろう)公式計測員が計測する事を
認める証明シールです。


 

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