Japan Optimist Dinghy Association テクニカル委員会


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漂流していたオプティミスト
〜艇の名義を気にしていますか〜


 

Yoshie Tanaka


OPは、15歳までのクラスです。
レースに参加する、という競技上はもちろんですが、艇の所有という点からも、この年齢制限があることで
OPは他のクラスにない特徴を持っています。


それは、艇の譲渡です。

新艇に買い換える際に以前の艇を人に譲る、というのは、どのクラスでもあることです。
が、OPの場合はそれに加え、OPを卒業する際に艇を後輩などに譲る、という場合があります。
年齢制限があるクラスというのはヨットではOPだけで、艇の譲渡が行われる機会は、他のクラスに比べると
頻繁にあることになります。

ですが、名義変更という現実問題としては、艇の譲渡が行われる度にきっちりしているか、というと
耳の痛い方もいらっしゃるでしょう。クルーザーならともかく、ディンギーの中でも小さく、しかも子供の艇です。
また、中古艇として譲ってもらった場合は安価だということもあり、所有者(名義人)については、ややルーズに
なっているかもしれません。


しかしながら、ヨットには、競技規則の中にも「艇のオーナー」ということばが何度も出てくる通り、
オーナー(所有者)にもそれなりの責任があります。OPのクラスルールの中でも同様です。
ルールをみれば、所有権は、譲渡が行われる度に変更しておいた方がいいことがわかります。

例えば、車やボートを購入したら、高価なものであるという理由だけでなく、様々な意味も考慮し、
速やかに名義変更をされるのではないかと思います。
OPについても同じではないでしょうか。持ち物には名前を書きなさい、という感覚も含め、登録を
常に正しい状態にしておくために、名義変更を以前よりおすすめしてきました。



・・・に加えて、先日、下記のようなことがありました。


年明けのある日、私のところに、1本の電話がかかってきました。

計測の申込先になっていることから、私のところには、OP協会の会員以外の方からもメールであったり
電話であったり、連絡を頂くことがあります。

「古いOPを貰ったんだけど、レースにはでられますか。」
「子供にヨットをさせてみたいと思うんだけど、新しい艇はどこで買えますか。」
など、さまざまです。

できるだけ、ゆっくりと内容をお聞きし、近くのクラブをのぞいてみる事などのご案内をさせて頂きます。
名乗られない方も多いですが、無理やりお名前を聞くことをしないので、その後どうされたかわからない場合が
ほとんどです。


ですが、その日の電話は少し感じが違いました。

話をしていても、電話の目的がみえません。何を聞きたいと思ってられるのか、OPを始めたいと
思っているようではありません。番号から持ち主がわかるのか、とか、持ち主が変わったことを全て協会は
把握しているのかなど、何かを調べているような感じです。

30分程たった頃、思い切って、「何かお調べですか。」と、聞いてみました。

「○○です。」
?!?!
海のお役所からでした。(聞いたとたん、ビクッとしてしまうのは私だけでしょうか。)

よく聞いてみると、担当の海域でOPが漂流しているのを拾ったとの事。
拾ったというのも妙な感じがしましたが、きっとそういう感覚なのでしょう。

OPといってもハルのみで、何のパーツもついていないようです。しかも、直近の大雨で流れてきた、という
感じでもなく、かなり汚れて傷んでいる様子。長い間漂流していたのか、それともどこかに繋ぎっ放しに
なっていたのでしょうか。パーツは何もついていない、ということでしたから、アップバックなどもないのでしょう。
被害届けも、捜索の連絡もないので、事件性はなさそうなものの、持ち主を探して連絡をしたい、ということでした。


どうにか読めるプラークNoを教えてもらい、わかり次第連絡する、ということで、電話を切りました。


歴代の計測委員の方々のご努力があり、現在、IOD艇についての登録記録はほぼデータ化されています。
名義変更についても、その手続きの際に、装備品のシリアルNoも含めての記録を残すようにしていますので、
こちらに申請のあったものに関しては、プラークNoやシリアルNoから、持ち主を調べることができます。

しかしながら、従来艇に関しては、その当時、コピー機やパソコンが今ほど普及していなかったことや、
データを残すという意識自体が現在よりもやや希薄だったこともあったでしょう。残っているものもありますが、
不明のものもあります。また、データ化はされておらず、紙ベースの手書きのノートやコピーを繰るしかありません。


今回の流れていたハルは従来艇でしたが、幸運にもプラークNoから登録名義を探すことができました。


艇の名義は、「個人」ではなく「クラブ」となっていました。しかし、艇番(セールNo)はかなり若いもので、
登録から既に20年程が経っています。クラブ艇としてもかなりの年代ものだと思われます。
クラブのメンバーもどんどん新しく代替わりしているでしょうから、知っている人がいるのか、と不安に思いながら
連絡をしてみました。

現在、クラブで活動しているメンバーではやはりわからず、OBの方に連絡をとって調べてもらうことになりました。


その艇は、当時同時に何艇かクラブに入った続き番号の中の1艇で、何年も前に人に譲ったものではないだろうか、
とのこと。まずは、心当たりの方に連絡してもらいました。譲られた直接の方は、さらに次の方に・・・、連絡先の
電話番号が変わっていて通じなかったのを他の方に聞いて調べて・・・を繰り返し、
ようやく辿りついた方のお返事は、

「家の庭にあるよ。」
・・・・

調査は、最初からやり直し、となりました。

しかし、再度、また、心当たりの数人に連絡をとっていくうちに、「私が引き取りにいきます」という心当たりの
ある方がいたようです。

その後のことは、クラブ内のことですので、どこでどうなって漂流することになってしまったのか、引取りに行って
どうだったのか、までは聞いていません。

とりあえずは、一件落着となったようです。


OPは、カートップで運べる手軽な艇です。
皆さんも遠征前に、車に積んでいるとヨットとわからず、「釣りですか」と声をかけられることがあるかもしれません。

他のディンギーに比べて持ち運びが便利なことや、その形や重量が扱いやすいことから、レース艇・練習艇としての
仕事を全うした後、例えば、ちょっとした釣り船になったり、沖止めのクルーザーの足舟になったりすることが
あるようです。そうそう、バーベキューなんかの時に、飲み物を冷やす道具にしていませんか。

子供たちのレース艇として全国を駆け回っていた雄姿から想像すると、引退後の様子は少しかわいそうな気も
しますが、寿命を全うしているようでもあります。


漂流して迷子になり拾われることになってしまったこの艇は、登録があったお陰で無事持ち主のところに
帰ることができました。もし登録がなければ、幽霊船のように淋しい思いをしたかもしれません。
この艇はいったいどんな人生(艇生?)を歩んできたのでしょうか。
機会があれば、事の顛末を聞いてみたい気がしています。


そしてまた、この艇は、名義変更に新たな教訓をもたらしてくれました。


もし、引き取り手が見つからなかったら、誰が引き取りに・・・?
もし、その流れていた艇に、別のプレジャーボートなどが衝突していたら・・・?
もし、流れた艇が網にひっかかったら・・・?

悪いことを考えれば、キリがありません。ですが、責任の所在ということを考えた場合、使用者がわからなければ、
やはり登録者に行きついてしまうのではないでしょうか。


いままでは、所有者の為の名義変更という意識だけでしたが、今回のことでは、前所有者の為にも
名義変更が必要なのではないかと考えるようになりました。

強制力はありませんので、おすすめします、というニュアンスになりますが、艇の名義変更がまだの方は、
こんなこともあるんだと言うことで、一度考えてみてください。

そして、艇を譲った方の方は、譲り渡した艇の名義がどうなっているかを気にしてみてください。
ご連絡いただければ、現在の状態をお調べします。



USODAの記事も参考に
http://japan-opti.com/rule/rule_file/column/rule_column_2002USODAnews.htm



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